僕たちは、素晴らしい未来に住んでいる

2015-01-10 9:06

昨日、アマゾンが便利だという話をしましたが、改めて考えると今は本当に便利な世界に住んでいるとつくづく実感します。例えば昨日、仕事をしながらiPhoneのTunein Radio というアプリで音楽を聞いていました。良さげな曲が流れてきたので画面に表示されたアーティスト名を見ると、歌っているのはスザンヌ・ヴェガでした。

 

そういえばきちんと聞いたことがなかったと思い、iTunesで検索。ベストアルバムを全曲プレビューしながらウィキペディアでスザンヌ・ヴェガの経歴をざっと調べてみて、そのままアルバムをダウンロードしました。この間、10分も掛かっていません。自分は椅子に座ったまま。動かしたのは指先だけです。こういった一連の動作は今となっては何も驚くことではないですが、自分が高校生のころを考えてみるとまさにドラえもんの世界のように思えます。

 

試しに同じことを高校2年生の自分がやってみるとどうなるのか。シミュレーションしてみたら恐ろしい結果となりました。時は1989年(平成元年)。3%の消費税が導入され、ベルリンの壁が崩壊し、松田優作が死去した年です。

 

 

石川県の片隅にある小さな温泉街に生まれ育った少年は、地元のFM局エフエム石川の音楽をCDラジカセで聞いていました。すると良さげな曲が流れてきたので、早速NTTの電話帳を開いてエフエム石川の電話番号を探します。

 

固定電話のプッシュボタンを押して、「今かかっていた曲は誰が歌っているんですか」と聞いてみます。「いつ頃にかかっていた、どんな曲ですか?」「ついさっきです。外国の女の人でなんかかっこいい感じのやつです」というぼんやりとしたやり取りがあり、ようやくスザンヌ・ヴェガという名前までたどり着きます。ここまでに、30分掛かっています。

 

さて、内容を確認せずにCDを買うと外れる可能性があるので、まずはレンタルしてみようと自転車で10分ほどのところにあるビデオショップに足を運びます。しかしその頃は邦楽のレンタルが多少始まったばかりです。洋楽のCDなどレンタルできるはずがありませんでした。

 

無駄足になるのは嫌なので、店員にスザンヌ・ヴェガのことをどう思うか聞いてみます。「スザンヌ・ヴェガ? 知らないね」とだいたい予想通りの答えが返ってきます。「小松市のCDショップなら洋楽も扱っているかもね」と20キロほど離れたところにあるCDショップを薦められます。

 

試聴せずに買うのにためらいはありますが、ここまできたらもはや意地です。「行ってみます」とそこから自転車で30分掛けて電車の駅までいき、30分ほど待った後にようやく到着した金沢駅行きの電車に乗って、小松市へと出かけていきます。

 

数多くの店が立ち並ぶアーケード商店街の中をひた歩き、一角にあるCDショップの中へと入っていきます。ここはロックやニューミュージックの品揃えが豊富です。置いてあるかもと期待に胸が膨らみます。

 

「すいません、スザンヌ・ヴェガのCDありますか?」「いいねースザンヌ・ヴェガ。あの子はそのうちグラミー賞取るんじゃないか」と店主の音楽通らしい頼もしい返答。しかしその後の言葉に愕然とさせられます。「でもね、輸入盤の扱いはしてないんだよね。ためしに注文してみる?1カ月ぐらい掛かるかもしれないけど」

 

……1カ月。

 

ここで少年の心は完全に折れます。「いや、いいです。やめときます…」そう言い残して、帰りの電車へと歩を進めました。いつの日か、机の前に座ったままでどんな音楽でもあっという間に手に入る、そんな素晴らしい未来がくるといいな、と思いながら。

 


Category:生活

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