村上さんからの返事と文章を書くこと

2015-03-11 8:08

村上春樹が読者とやり取りをする、「村上さんのところ」というサイトで、自分が出した質問が採用されていた

 

「村上ですが」というタイトルのメールが届いたのが三日前のこと。自分にメールを寄こす村上さんという知り合いは仕事でお付き合いのある編集者の村上さん一人しかいなくて、「こんな謎めいたタイトルを付ける人じゃないはずだけど」と開いてみたら、自分が書いた質問と村上春樹からの回答が書いてあった。

 

最初は何のことやらわからなかったが(書いた質問の内容も忘れていた)、ああ、これは、自分の質問が採用されたということだね、とようやく気付き、後日サイトにもアップされていた。

 

作家と一読者という日常生活ではなんら接点がないのに、こうして文字でのやり取りができたというのは本当に嬉しい事だ。改めていい時代だなと思う。そしてふと昔のことを思い出した。

 

大学に入学したばかりのとき、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」という小説を書店で手にした。それまでにも順に作品を読んでいたのだが、「ノルウェイの森」があまりにも馬鹿売れしたため、古参読者のよくある心情として村上春樹を読むこと自体、なんだか嫌気がさしていた。

 

ただ「ダンス・ダンス・ダンス」は初期三部作の正当な続編という位置づけである。初期三部作というのは自分にとってとても大きな輝きを持っている特別な作品だ。その続編であるならばやはり読んでみなくては、と発売から1年以上経ってようやく読み始めたのだった。

 

その小説の序盤で主人公は家に閉じこもる生活を数ヶ月送る。何もやる気がしなくなるような大きな出来事が過去にあったのである。猫と一緒に暮らし、料理を作り、映画を見て、誰にも会わずに日々を過ごす。そうしているうちに「こんなことではいけない」と起き上がり、社会復帰を目指すことになる。

 

社会復帰をするために必要なことは、仕事をすることである。主人公は以前、コピーライターの仕事をしていたコネを利用して、なんでもいいから仕事がほしいと周りに伝え、文筆の依頼がくるようになる。

 

主人公は来る仕事を断ることなく、丁寧にこなしていく。あるときはアイドルへのインタビューをテキストにし、あるときはアナログ式時計の長所を、あるときはヘルシンキの美しさについてなど、彼のもとに舞い込んでくるテキストの依頼を黙々とこなしていく。

 

このライターとして生計を立てていく様子が自分はとても好きだった。仕事のやり方が具体的に描写されていて、19歳だった自分は読みながらどんどん引きこまれていった。世の中にどういった種類の仕事があるのかまだ全然わからない若者にとって、「文章を書く、そのことを仕事にすることができる」というのはおそろしく魅力的なことだった。

 

「しかし」とその時の若者は思った。「そんなことができるのは一握りの人間だ。しかも小説の中のことじゃないか。生活をしていくためには、もっと地に足の着いたことを考えていかないと」

 

それから20数年が経ち、こうして村上さんからの返事を見ていてふと思った。なんだ、結局、今の自分はそういう生活を送っているではないか、と。ブルーデザインを立ち上げたのが、今から4年前(震災があった年)。それからデザインを中心に仕事が増えていき、今では写真撮影、執筆、ウェブ制作、そして動画撮影までやるようになった。

 

その中で、執筆のウエートが年々高くなっている。カメラとメモ帳を持って取材に行き、インタビューをして、それをテキストに起こすことが日常的な仕事の一つになっている。文章を書いてそれを仕事にする、それは特別な人だけがやる仕事ではないんだ。そういうことに今ようやく気づく。10代の終わりのときに「こういう風になりたいな」と思ったことが、まわりまわって現実のこととなっているのだ。

 

であるなら、と再び思う。今、こうなりたいと思っていることが将来、現実になるのならば、残りの与えられた時間を使ってどういう自分になっていくか。またなりたいのか。毎日、望む未来のことを想像していくことが、未来の自分にとってとても大切なことなのだ。そう改めて未来を思うきっかけを与えてくれたのがまたもや村上さんなのも不思議なことだと思う。

 


Category:映画・音楽・本

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