渡辺美里の詩の力

なぜだかわからないけれど、急に、高校生のころに聴いていた渡辺美里の『ribbon』というアルバムを聴きたくなった。こういうことは音楽に限らず、漫画でも映画でも小説でもたまにある。昔、目や耳にしたものへ急に触れたくなるのである。理由はわからないが。

それで早速、iTunesで探してみてダウンロードしてみることにした。メロディの力というのはすごいもので、最初の曲の出だしを聴いただけでアルバム全体を思い出してしまった。聴いているうちに聞き取りやすい歌声にのって歌詞が耳に入ってくる。改めて聞き直すと、メロディだけでなく詩がすごい。なんというか、言葉によるイメージの重ね方が洗練されている。

例えば、「悲しいね」という歌詞の一節。

悲しいね さよならはいつだって
やさしさを失った海の色

やさしさを失った海は荒れている海だろう。そこに悲しい心情を重ねているのだけれど、さらに「色」を持ちだしている。「やさしさを失った海の色」を実際に見たことがないけれど、誰をも近づけない表情のない冷たさがそこにあることは想像できる。「悲しさ」を表すのにこういったモチーフを引き出せるのが単純にすごい。

もうひとつ、「さくらの花の咲くころに」の一節。

春の雨がこんなにも冷たいなんて
知らずにいた自分と
さよならをするときかもしれない

春は別れと出会いの季節で、情景を作りやすい。「春の雨が冷たい」ことは別れを暗示している。そのことを知らずにいたというのは、別れの辛さをはじめて経験したということだ。今まで知らずにいた経験不足(子ども)だった自分から、次の段階へと成長するときなのだと、この詩は自分に言い聞かせているのである。

ほんの二行程の言葉の中に、たくさんの感情が詰まっている。メロディだけにのって聴いていても、こういったたくさんの言葉の衝突のある文章には自然と耳がとまり、風景を思い浮かべてしまう。詩の力はすごい。