Amazonの割引と書店の買い占め

これまでに断続的に書店の未来について書いてきているが、ここ最近で考えさせられるニュースが2つあった。ひとつは、アマゾンが実施した紙の本の割引セールである。2015年6月26日から7月31日までの間、キャンペーンと銘打って、出版社6社約110タイトルの書籍を定価の20%オフで販売したのだ。

ついにアマゾンが書籍の「安売り」を始めた! 2015年6月26日 東洋経済オンライン

ご存じのように書籍というのには再販制度があり値段を変えて売ってはいけない。しかしこれは公正取引法とは矛盾する考えである。なので通常は公正取引委員会が書籍・雑誌に限り再販売価格を認めているわけだが、公正取引委員会が許可したアイテムに限りその値段の拘束が解かれることとなる。

要は公正取引委員会の意向次第。このキャンペーン中、割引を許可されたタイトルは、市場原理の名のもとに自由な値付が許されたものなのである。

それでもう一つのニュースというのが、昨日発表された紀伊國屋書店の村上春樹新刊本の買い占め。

紀伊國屋書店、村上春樹氏の新刊「買い占め」 2015年8月21日 日本経済新聞

簡単に説明すると、9月発刊予定の村上春樹エッセイ「職業としての小説家」の初版10万部のうち、9割にあたる9万部を紀伊國屋書店が買い取る契約を結んだとのこと。またまた再販制度という言葉が出てくるが、書籍というのは本当に特殊な商品で、値段を自由に決められないかわりに書店は本を自由に返品していいことになっている。在庫リスクがなくなることになり、これは他の小売店に比べて相当のアドバンテージを持つことになる。しかしその分利益率は相当低い。

まあ「行って来い」みたいな感じではあるのだが、紀伊國屋書店はこの村上春樹の新刊を買い取ることにしたので返品はできなくなる。もちろん仕入れ値は通常とおりとはならないと思われるが、その分当然のことながら在庫リスクを抱えることとなる。この買い占めの理由として紀伊國屋書店はネット書店への対向手段であると明言しているという。自社で買い取った本の3万~4万部は、他社のリアルな書店へと供給する。アマゾンをはじめネット書店へは初版のうち5千部しか流通しないことになるという。

この2つのニュースを読み比べてどう思うだろうか。かたや限定的ながら書籍の割引をしてくれる小売店。かたや、他の店で買えないよう人気商品を独占する小売店。どちらが消費者のことを思って行動している店舗であろうか。紀伊國屋書店の施策は圧力で市場を歪める行為である。

ネット書店への嫌悪感を露わにしている紀伊國屋書店であっても、オンラインショップは所持しているのである。

KINOKUNIYA WEB STORE

しかしこれはネットで注文をした後に店舗にまで取りに行かなくてはならない。要は客注を自宅から消費者にやらせるというシステム。「24時間利用可能」「送料手数料不要」などを謳っているが、書店にある検索機を自宅で操作できるくらいの利便性しかない。しかも「クレジットカード利用可」を明記していないではないか。

カードが使えず商品は店舗にまで取りに行かなくてはならない。そんなECって誰が使うのだろうか。同じ手間でAmazonを使えば速くて翌日に届けてくれるのだ。あまりにも競争優位性に欠ける。

しかしここで紀伊國屋書店のことを悪く言うのは本当に簡単なことなのだ。こういう嫌がらせのような対抗手段ではなく、もっと生産的に書店の売上を向上させる方法はないものかと考えてしまう。


金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。