村上春樹についての備忘録 その3

「カンガルー日和」と平行して、デビューから第二作目である「1973年のピンボール」、そして三部作の最終章である「羊をめぐる冒険」と読み進めた。「1973年のピンボール」は、「風の歌を聴け」の主要人物である僕と鼠の章が平行して同時に進んでいく形式を取っている。

そのやり方は後の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」や「海辺のカフカ」、「1Q84」でも見られた形式であるが、「1973年~」は「風の歌を聴け」の断片的なエピソードで全体を積み上げていく形式も継承していたので、読み通して今ひとつまとまりを感じずピンとくるものがなかった。

何というか読んでいても作者自身が書きづらそうな不自由な印象を持ったのである。ということで、村上春樹の初期の作品はどれも何度も読み返しているが、「1973年~」はそれほど再読した覚えがない。

以前書いたように、自分が村上春樹の本を最初に手にとったのは「羊をめぐる冒険」でそれは3部作の最終章ゆえに頭にすんなりと入ってこないもどかしい物語であった。デビュー作から順に読み進めた後、改めて「羊をめぐる冒険」を読み返すことによってその素晴らしさに気づくことになる。

今ブログを書きながら目次を読み返してみたのだが、やっぱり改めておもしろいなと思う。素晴らしい耳を持った女の子が出てきたり、ビジネスライクで恐ろしく頭の切れる秘書が出てきたり、食欲旺盛な羊博士や臆病な羊男が出てきたりする。登場するのはとても一般的とは思えないワクワクするような人物ばかりだ。

タイトル通り、この物語の骨子は特殊な能力を持った「羊」を主人公である「僕」が探しに行くというものなのだけど、その本編となる「羊をめぐる冒険」が始まるのは、全八章のうち第三章の終盤からである。それまでの第一章や第二章、第三章は長い助走部分。物語に入る前の導入部分であるのにかかわらず異質なほどページ数を取っているが、その内容自体とてもおもしろくて驚いた。

導入部分だけでいくつかの短編を作り出せそうな気がする。長編小説だけにストーリーテリングではあるのだけれど、ページごとの会話であったり主人公が考えることだったり食事の描写であったりが、とても魅力的だった。

頭から通して読んだ後は、適当なページを開いて少しだけ読むということもよくしていた。どのページを読んでもおもしろいと感じた。それまで、小説というのは読後の感想を楽しむものだと思っていた。いわば結末にたどり着くまでの途中である文章は、つまらないものだと。それがどのページでもおもしろいと思えるというのは、新鮮で驚きだった。(つづく)