期待に沿わないように

こういうことを書き出すと、抽象的でぼんやりとした話になってしまうかもしれないのだが、ふと、「期待に沿わないようにしよう」と思った。仕事であれば、期待されているイメージの成果物があって、それに見合うものかもしくは、それを越えるものを出すことがプロとして最低限やるべきことである。これは世間のどこに出してもおかしくないまっとうな意見ではないかと思う。

だから発注を受けた際、「どういうものを作って欲しいのか」とまずは顧客の考えに寄り添い、意向に沿って進めていくのはごく自然なことだとは思う。

なのだけれど、自分たちのように世に向けて新しい何かを生み出す仕事であれば、そもそも顧客のイメージ内におさまっていてはいけないような気がしてきた。「期待通り」「イメージ通り」という言葉をもらえたとすれば、それは制作物に驚きがないということである。

毎日使うような日用品であれば驚きなど不必要だろうが、広告デザインや写真や動画、文章には、どこか人の胸に残るフックが欲しい。制作物にそのような仕掛けをほどこそうと思ったなら、まずは顧客の期待に沿うことは一旦やめて、むしろ「どう裏切ってやろうか」と楽しみながら作るような姿勢が必要ではないか。

特に今のご時世はコンプライアンス遵守の風潮が強くなってきて、まずはクレームがつかないように、波風が立たないようにと無難なものへと流れていく傾向がある。何も「そんなことは向こうへやってめちゃくちゃやってやろう」と考えているわけではないのだけど、こういう世の中だからこそ、意識的に「期待に沿わないでいる」ことを頭に置いておかないとおもしろいものは生まれないのではないか、と思った次第。

そういって羽目を外しすぎて商品として成立しないものが生まれてはどうしようもない。その辺りの境界が難しいと思いつつ、今日もせっせと手を動かしていく。


金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。