台湾一人旅 2-6 メニューが読めず、勘で注文する

台湾旅行記の12回目です。

中国語の単語がずらりと並べられた表組を睨んでみる。列が2つに、行が30ばかり。全部で60くらいのメニューがある。この中から言葉のわからない海外旅行者が自分の食べたいものを探しだす、これはあまりにも至難なことである。

ちなみに海外旅行へ行って日本に戻ってくると、とかく飲食店でのメニュー表を気にしてしまう。金沢などは新幹線開業に賑わい外国人観光客の姿も増えたと聞く。果たして彼らは、日本語のみの表記で写真も貼っていないメニュー表の場合、無事にオーダーできているのだろうか。他人事ながら心配である。

しかし今は金沢に来る旅行者の心配よりも、実際に台湾の食堂でメニュー表を見ている自分のことを心配したい。さて、この中から何を選ぶべきか…。

通常、飲食店にはイチオシのメニューというのが存在して、それらは太文字で記されたり一番最初に書かれたりしてアピールしてあるものだ。その法則に従って、メニューの一番最初に書いてある「猪心」というものを頼んでみることにした。この言葉を信じるなら猪の肉を調理したものが出てくるはず。猪肉は嫌いではないのでおそらく食べられるだろう。

店員が注文票を取りに来る気配はまったくないので、店内の調理台らしきところでテレビを見ているおじさんの元へ注文票を持って行った。

するとおじさんは、「え、お前、これ食べるの?」みたいな顔をして僕のことを見返し、何やら中国語で話しかけてくる。もちろん何を言っているのかわからないので、ともかくおれは昼食を食べたいんだ、ということをアピールしようと、“I don’t speak Chinise.I want to eat lunch.”と訴えてみた。

おじさんは、ああ、なるほど、という風に頷いてメニューの一つを指差してくる。何をいいたいのかまったくわからないけど、まあどのメニューも30TWD(約110円)くらいで高いものではない。意味もわからずにこちらも頷き返す。そういう一連の汗をかくやり取りが終わると、自分の席に戻って料理が出てくるのを待つことにした。

しばらくするとまずはひと皿目の品が運ばれてきた。おそらくこれが一品料理の「猪心」なのだろう。ボイルした太めの牛たんを短冊切りにしたようなものである。甘辛いトロッとしたタレが掛かり、生姜の細切りが添えられている。

一口食べてみる。うまい!歯ごたえのある食感で、噛むと凝縮された肉の旨味が口の中にしたたってくる。

「猪心」を「うまい、うまい」と食べていたら、次に青菜の炒め物と麺が運ばれてきた。どうやらこれがランチセットのようである。つまり僕は、ランチセットを頼まずに一品料理の「猪心」だけを頼もうとしていたわけだ。お店の人にしてみれば、酒も飲まずにそんな変わった頼み方をするのを怪訝に思い、あれこれと話しかけてきたのだろう。

青菜の炒め物と麺も美味しかった。どちらも薄味なのだが食材の美味しさがきちんと伝わってくる。麺は昨日の屋台で食べたのと同じようにコシがなくて柔らかく、スープもごくあっさりしたもの。それでも頼りない味というわけではなくて、しっかりとしたコクもある。

ところで「猪心」というのは一体なんなのかと、ここでようやくGoogle翻訳を使って調べてみるという余裕が出てきた。麺をすすりながらスマホを起動させ検索してみる。

なんと「猪」は中国語で「豚」を意味し、「心」は「心臓」の意味となる。つまり「猪心」は「豚の心臓」というメニューなのであった。豚の心臓はこれまでに食べたことがない。それにこの意味を知っていたら、好き好んで食べようとも思わなかっただろう。「知らない」というのは強いものだと思いながら、すべての品物を残さずに食べた。

会計は全部で125TWD。日本円で約460円。非常にお安くて満足である。

会計時におじさんへ、“Very Delicious!Thank you!”と告げると、“謝謝”と少し驚いた表情で返された。まあ、街の食堂でそこまで感動的に感想を言う人はあまりいないだろうから、びっくりしてしまったのであろう。旅先では不必要にテンションの上がることがあるので注意が必要である。

さて、お腹が満たされると体力は一気に回復する。次の目的地である龍山寺へ向かって歩き始めることにした。(続く)


金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。