台湾一人旅 3-7 ロープウェイでのわずかな会話

台湾旅行記の28回目です。

ロープウェイは、いよいよ自分たちの番となった。係員が駅のホーム内を周回している一台のロープウェイに近づき、扉を開いて僕に「一人か?」と指を一本立てて聞いてきた。“Yes.”とうなずくと乗るように促される。

続いて、3人組の一団がロープウェイの中へと乗り込み、僕を含め計4人で頂上である猫空駅を目指すこととなった。

3人組は若いカップルに年配の女性という組み合わせである。中国語で交わされている話の内容はまったくわからないが、どうやらカップルの男性と年配の女性は親子であるらしい。

恋人同士のお出かけ(または旅行)に、彼のお母さんも付いてきたという感じである。こういうシチュエーションは日本ではまずあり得ないと思われるが、中華圏では普通なことなのかもしれない。

お母さんもスマホを持っており、笑いながら若い二人をパシャパシャと写真に収めている。そういう状況の中、ロープウェイはワイヤーをつたって上へ上へと上っていく。床はアクリル板のような透明の板になっていて、下を見ると地面までの距離をリアルに感じることができる。

一番高いところで、500メートルくらいの高さにまでは来たと思う。特に高所恐怖症というわけではないのだが、正直言ってこれはかなり怖かった。

山と山の間を細いワイヤー一本でロープウェイが進むのである。4人の体重と機体の重さで結構な重量になっているだろう。何かのはずみでワイヤーから外れ落ちてしまわないかと、楽しさより恐怖心ばかりが先に来る。

しかし僕以外の3人の乗客はまったく怖がる素振りを見せなかった。中国語で笑いながら自撮りしたり、写真を撮り合ったり、撮った写真を見せ合ったりと平和そのものである。

そのうちお母さんの方が僕に興味を持ち出して、何やら中国語で話し掛けてきた。何を言っているのかわからなかったので、“I don’t speak Chinese.Sorry.”(僕は中国語が話せないんです、ごめんなさい)と返すと、「日本人ですか?」と日本語で聞いてきた。

「ええ、そうです。日本人です」とびっくりして言葉を返す。この状況でよもや日本語を聞けるとは思わなかった。「私、少し日本語話せますよ」と笑いながらお母さんは続ける。しかし「そうなんですか」と僕が言った後、会話は繋がらなかった。

これ以上、話が続きそうにないことを感じたのか、僕との間に微妙な空気を残したまま、またお母さんはスマホでカップルを撮り出した。僕はといえば、ロープウェイの恐怖心がまた自分の身に降り掛かってきて、手すりをギュッと掴んだままで頂上に到着するのをひたすら待った。

今、こうして当時のことを思い返しながら文章を書いていると、この時、僕はこのお母さんとどういう会話をすれば良かったのだろうと考える。

「どんな日本語が話せるんですか?」
「皆さん仲がいいですね。親子ですか?」
「ロープウェイは初めてですか?」

話すことなど、何でも出てくるのだ。

このときの自分は、おそらく話すことが面倒に思ってしまったのだろう。上手く出てこない英語やどういうことを話せばいいのかといった迷いを考えると、この場で異国の人と話すこと自体、億劫に感じてしまったのだ。

一人旅をする目的の一つは、一人でどこまでやれるのか知りたいということがある。自分の足で海外を見てまわりたいというのがある。でも海外へ旅をするということは、別の国の人がどんな風に考え日々を過ごしているのか、それを肌で感じることができる大きな機会でもあるのだ。

これから旅を繰り返していけば、地元の人と触れ合うこうしたチャンスに、自然と会話ができるようになるだろうか。ちょっとしたほろ苦い後悔を感じたまま、ロープウェイは頂上に無事到着した。(続く)

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金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。