台湾一人旅 3-8 一番幸せな瞬間

台湾旅行記の29回目です。

ロープウェイから頂上である猫空駅へと降り立った。その名前から寓話の中に出てくる素敵な駅を想像していたが、そこは普通の駅とさほど変わらない実務的で真面目な雰囲気のところだった。

崖沿いにある通路を歩いていると、吹き上げてくる風が冷たくて身体が一層冷え込んでくる。通路沿いにはコンビニエンスストアがあり、ここに来た人はとりあえず暖を取ろうとその中へと入っていっていた。

僕もまたコンビニの中にしばらく入って身体を落ち着けた後に、せっかく頂上に来たのだからと少し辺りを見て回ることにした。

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猫空駅はやはり観光客向けのエリアとなっているらしく、お土産物屋や飲食店、屋台が通りに立ち並んでいる。香港でピークトラムに乗って頂上へと登ったことがあるが、そこと雰囲気が似ているように感じた。

昼前に淡水で牛肉麺を食べたきり何も口にしていなかったので、少しお腹が空いてきていた。ここで何か食べることにしようといくつかの飲食店を物色した。

その中で、大きな屋根が備えられた15坪ほどのスペースに、何組ものテーブルと椅子が並べられた場所があった。飲食店も軒を連ねている。商店街が主催する町の小ぢんまりとした夏祭りといった感じである。

ここで食事を済ませてしまおうと、中に入ってどういった飲食店があるのか確認してみた。串に刺した肉や焼きとうもろこしといった軽食が多い中、入ったすぐのお店は麺やスープ、炒めものなど、しっかり食事のできるメニューが揃っている。

ここにしようと列の最後尾につく。社内食堂のようにトレーを取って順番に品物を受け取るシステムになっていたので、山積みされていたトレーを一枚手にした。

カウンターを隔てた向こうには、料理を順番に盛っている3人の店員がいた。男性店員が2人に女性店員が一人。どの店員も20代前後と若く、一人は髪を金髪に染め上げていた。3人とも一見して強面な感じなので、ぶっきらぼうな接客をされそうに思い緊張してしまう。

まずはひとつ目の料理の前に来た。5つぐらいある中で、焼きそばのような炒めた麺が美味しそうに思いこれを選択。“This one please.”(これを一つください)と話すと、体格がよく背の高い男性店員が、“OK.”と皿に麺を乗せた。

その皿を受け取って次の料理へ。すると次の料理を担当している金髪の男性店員が何か中国語で話しかけてきた。もちろん何を言っているのかわからず、緊張もあってフリーズしていると、さらに「◯◯は?◯◯は?」と聞いてくる。

何回か聞いているうちにそれは日本語っぽい言葉のように思えてきた。落ち着いて口の動きを見てみると、「スープは?スープは?」と言っているようだった。

金髪のお兄さんのところではスープをもらえるので、どのスープがいいのか僕に聞いてくれているのだった。中国語がわからなそうだと踏んで、即座に日本語へと切り替えてくれたのである。

なんだそういうことかと一番手前にあった、つみれみたいな団子の入ったスープを指差して、“This one please.”とお願いする。“This one? OK!”とお兄さんは元気よく答えて並々とスープを器に盛って僕のトレーへと置いてくれた。

“Thank you.謝謝!(ありがとう!)”とお礼を言うと、「どういたしまして!」とたどたどしい日本語で返事をしてくれた。それを聞いた残りの2人が「お前、どこでそんな日本語を覚えたんだよ」みたいな感じで金髪のお兄さんをからかって、笑いながら肩をこずきあっている。

お礼を言いながらその場を立ち去ろうとすると、3人が口々に僕へ何かを言っている。日本語でなく中国語のようだった。

わからないままにその場に立ち止まっていると、体格のいい男性店員が外に飛び出て僕に手招きをして、こっちへこいと誘導している。

その通りについていくと、箸が置いてある場所へと連れて行ってくれた。先ほどの三人はおそらく、「箸は向こうにあるから、自分で取ってくるんだよ」と口々に言ってくれたのだろう。“Thank you!”と再びお礼を言うと、“謝謝”と言いながら彼は自分の持ち場へと帰っていった。

何なんだろうこのハッピーな感じは。これまでの一人旅の時間の中で一番幸せな瞬間かもしれない。

空いている席に腰掛けてファミリーやカップルで賑わう中で、一人食事をする。人に優しくされるというのは、これほど心が温まるものなのか。そう思いながら食事を口に運んだ。

猫空駅という台北の空に近いファンタジーな名前の駅で、人の優しさの大切さを改めて感じた。(続く)

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金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。