金沢の隠れた名店・とと家

2月初旬ぐらいから、金沢の名酒場をまとめて紹介するというムック本にライターとして参加している。編集担当がピックアップした100件のうち、30数件を割り当てられて、カメラマンと一緒に多い時には1日3件の取材を行なった。

いわゆる記事広告ではなく、どれも一定の基準を設け選ばれた店ばかりである。なのでどの店も個性があり、客として改めて訪れてみたいところが多かった。

撮影用の料理は取材後に、「どうぞよろしかったら召し上がってください」と試食を進められることがある。もちろんどの店も旨いのだが、そうして試食させていただいた中でも「ここは美味しいな。またプライベートで来たいな」と思った一軒が、金沢の安江町にある「とと家」である。

場所は、金沢駅東口の目の前の大通りを香林坊の方へ歩いて行き、ルキーナという福祉用具情報プラザの裏の道を入っていく。つまり別院通りに入っていき、500メートルくらい歩いたところにある。

まだムック本は完成していないのだけど、晩飯の時分になってふと思いたち足を運んでみることにした。店に入ったのはまだ19時前の早い時間。カウンター内の厨房には大将とアルバイトの女の子がいて、客はアルバイトの友達らしい学生さんが2人だけだった。

ごく狭い店である。10席ほどのカウンターとボックス席が一つしかない。僕は2人で行ったのだがこれで客の数は計4人となり、キャパの1/3ほどを占めたこととなる。

一応大将に挨拶をすると、取材したことは覚えてくれているようだった。居酒屋に来て申し訳ない話だが、車で来ていることもあり連れも自分もそれほどアルコールが強くないので、ウーロン茶を2つ頼み料理メインで楽しむことにする。

まずはお通しがでる。熱々のロールキャベツだった。その後、取材時にも撮影したドジョウの唐揚げを注文する。生きているドジョウに粉をまぶして、そのまま油へ投入する豪快な料理である。

ついさっきまで元気に泳ぎまわっていたドジョウなのだから、それはもう新鮮極まりない。カラッと揚げられ絶妙な塩加減とともに皿に盛られる。これが旨いのである。箸を出す手が止められない。山盛りのドジョウはすぐになくなってしまった。

その後、牛肉のハラミ焼、ヒラメの昆布締め、トマトサラダ、焼きおにぎり、自家製厚揚げと料理を頼んでは平らげていく。どれもが美味しかった。

カウンターに座っていたため、カウンター内で大将が調理しているところを見ることができていた。それで気づいたのだけど、例えば小口に切ったネギを使うにせよ、大根おろしを皿に盛るにせよ、おろしたしょうがを盛るにせよ、すべて注文が入ってから切るなりおろすなりを行なっているのである。これは結構、特徴的だと思った。

料理は作りたてがやはり美味しいものである。なのでもちろん薬味も、おろしたて、切り立てが一番新鮮で香り立つのは間違いない。でも飲食店では、こういったまとめてできることは仕込みの段階でやっておき、後は盛りつけるだけにするのが通常だと思う。チェーンの店では、おろしてある大根おろしがパック詰めにされて届けられたりもするだろう。

それを注文が入ってから、そういった言わば面倒な仕事も一つ一つ丁寧に行なって、料理を作っていく。その仕事ぶりを目の当たりにして、そりゃ旨いはずだ、と膝を打った次第である。

食べ終わる頃には、仕事帰りのサラリーマンが次々と店に入り、カウンターはぎゅうぎゅうの満席になっていた。大将にお会計をお願いして、店を後にした。美味しい料理を食べたという満足感がある。また来ようと思う。