タイ旅行記 1-19 タクシーで心がなごむ

タイ旅行記の19回目です。

道路を渡って停まっているタクシーに近づくと、別の地元民らしき人がタクシーに乗り込もうとした。割り込み乗車になりそうだったが運転手さんが、「あの人の方が速かったから」みたいな感じで拒否してくれた。

なかなか良さそうな感じの運転手さんである。

乗り損ねた人に会釈をして、タクシーの後部座席に乗り込んだ。するとタクシーが行き先も聞かずに走り出したため、起動していたグーグルマップを後部座席からかざし行き先のホテルを見せた。

運転手さんは50代後半くらいのおじさんである。座っているから正確なところはわからないが、結構、小さい体格の人だ。

そのおじさんは「あー?」みたいな気の抜けた返事をして脇に車を停め、iPhoneを受け取った。見づらそうな顔をして画面を眺めている。おそらく老眼なのだ。

見づらいからと陽の光の下にiPhoneを持っていくが、それだと画面が反射して余計見えなくなる。手を引き寄せて日陰へとやると「おー、おーけー」と返事をした。大丈夫だろうか。

「ここのホテルに行きたいんだけどわかる?」というようなことを英語で聞いたが、「うー、あー、うーん」と悩んでいる。マップを見る限りそんなにややこしい道じゃないような気がするが。

指でスクロールするのがうまくできないようなので、後ろから手を伸ばして画面を操作した。その度におじさんは「あー、おー、うーん」とわかっているのかいないのか微妙な返事をしてくる。

そういったやり取りが3分ぐらい続いた後に、「おーけーおーけー」と答えながらようやく車は発進した。まあ、後は座っていればホテルまで連れて行ってくれるだろう。グーグルマップを片手にルートを確認しつつ、流れる外の景色を眺めた。

しばらくしておじさんが、「ハイウェイ、おーけー?」と聞いてきた。おーけーである。早く着いてくれたほうが助かる。「おーけー」とおじさんの口真似をして答えた。おじさんは笑顔である。受けてよかった。

ハイウェイに乗りしばらくして、おじさんは助手席の日除けに挟んであるパンフレットを取り出して僕に渡してきた。「パンフレットね、おーけー」。見てみるとどこかの寺院の案内図のようだった。相当長い間、そこに挟んであったのか日に焼けてボロボロである。

ペラペラとめくった後にお礼を言って返そうとすると、「ノーノー、おーけー、NOマネー、おーけー」との返事。どうやらこのボロボロのパンフレットを僕にただでくれるようである。正直、使うことには絶対なりそうになかったが、ありがたくお礼を言ってバッグにしまった。

トゥクトゥクのお兄ちゃんに置き去りにされた後、いくらか心が荒んでしまったが、おーけーおじさんのちょっとした心尽くしに気持ちがなごんだ。捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことである。

そうした和やかな空気の中、タクシーはホテルに向かって進んでいった。パンフレットのくだりの後に、マヌケな僕はようやくメーターが上がっていないことに気づいた。