タイ旅行記 1-20 正規料金はいくらだ?

タイ旅行記の20回目です。

日本で暮らしている僕は、タクシーのメーターが上がっていないという事態を体験したことがない。それは一体、何を意味するのだろうか。

つまり運賃についての明確な尺度が存在しなくなるということである。

目的地に到着してから、それが仮に10,000バーツだとしてもヘタすると文句を言えなくなる。「これがこのタクシーの正規の値段だ」と開き直られれば最初に料金を聞かなかったこちらの落ち度ということになるかもしれない。

もう間もなくでホテルに到着となるが、果たして料金はいくらになるのか。こう思いながらもそれほど大きくは気に病んでいなかった。それは、このおじさんがそれほど悪い人間には思えなかったからである。

そうこうしているうちに車はホテルの近くまでやってきた。

道路の左手にホテルを確認できたが、あいにくタクシーは片側4車線の一番右側をを走っていた。そのため少しずつ左の車線へと移っていき、ホテルから300メートルくらい離れたところでようやく停車することができた。

「やー、さんきゅー、おーけー」と言いながら運転手のおじさんは料金の計算を始め、「400バーツ、プリーズ」と言ってきた。確かドンムアン空港からワット・アルンまでハイウェイを使って400バーツくらいだった。体感的にはそれほど距離に違いはない。まあそんなもんなのかなとその値段を払うことにする。

手にしているお札を見てみると細かい紙幣や硬貨を集めても400バーツに足りず、1000バーツ札を出すほかなかった。

いやーな予感がしたがそれを差し出すと「のー、のー」とおじさんは困惑しはじめた。要するにお釣りがないと言うのである。

いやいやそんなはずはないだろうと思ったが、おじさんはお釣りを入れてあるらしきバッグから紙幣を取り出し数え始めた。

20バーツの束がいくつかあってどう考えても600バーツくらいのお釣りはありそうだったが、おじさんはその中から100バーツ数枚と20バーツの束いくつかを取り出して、「これで頼む」みたいなことを言ってくる。

ざっと数えてみると500バーツくらいしかなかった。「いやいやいや、1000バーツ渡したんだからお釣りは600バーツだよね?」と言ってみるが、「のー、のー」と繰り返すばかりで、しまいにはタクシーのサービスチケットみたいなものを渡してきた。

もうこの時点で、ほとほと、ほとほとに疲れ果ててしまった。

100バーツといえば300円ほどである。300円で押し問答していること自体がバカバカしいのと、かといって無駄にお金を渡す悔しさがあいまって、何だかもうどうでもよくなってしまった。

「もう、わかったよ。じゃあ降りるよ、ありがとう」と言って車を降りた。

降りた道路を振り返ると、今日から泊まる予定のホテルがそびえていた。台湾や香港で泊まったところより安価だが、その3ランクぐらいグレードの高いホテルなのがすぐに見て取れた。

日本のホテルに例えるなら、結構ゴージャス目のビジネスホテルという感じである。どこよりもその場所が今の自分にとってのオアシスに思えた。

ところでこの文章を書いた後に、そもそも400バーツという乗車料金は妥当だったのか調べてみた。

基準は、ドンムアン空港〜ワット・アルンまでの距離と料金である。この時はメーターをあげていたので、正規料金だと思われる。

ドンムアン空港からワット・アルンまでは約30キロ。ハイウェイを使って料金は300〜400バーツだった。仮に400バーツとしよう。

今回のタクシーはThawiphon Alleyのスターバックスから、地下鉄のPhra Ramという駅を降りてすぐのところにある、Hotel Grand Mercure Bangkok Fortuneまで。

グーグルマップで距離を確認してみると、約13キロしかなかった。ドンムアン空港〜ワット・アルンまでの半分以下である。

つまりきちんとメーターを上げて走っていれば、150〜200バーツくらいで行けた距離ということになる。それに500バーツくらい支払ったわけだから、まあ単純に倍ぐらいぼられたわけだ。

見方を変えれば何も調べずに空手で乗り込んで、「この程度の被害」で済んだのが幸運だったとも思える。

この日の一連の出来事が、その後のタイでの移動手段に大きく影響を及ぼすこととなった。


金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。