タイ旅行記 3-3 スコールの中、船に乗る

タイ旅行記の31回目です。

ナビに従えばその先は船乗り場へ到着するはずである。ポタポタと落ちてくる雨粒を気にしながら、スマホの画面に目をやって歩いていった。

すると道はどんどん狭くなっていき、ついには川岸へと到着した。

雨は本降りになっていて、川幅10メートルほどの水面には無数の丸い円が描かれている。川岸は板張りで、とりあえずは駅のような態勢をとっていた。駅員らしき人も立っている。

ちょうど僕がその場に着いた時に一艘の船が見えてきた。日本でいう屋形船みたいな感じの、細長い船である。

これぞまさに渡りに船と乗ろうとしたところ、「ちょっと待て、君はどこに行くつもりなんだ?」と駅員が尋ねてきた。

雨に濡れるiPhone5Sの画面を見せてラーチャダムヌン・スタジアムのことを告げると、「これは逆方向の船だ。乗るのはあっちだ」と反対側からこちらに進んできている別の船を指差した。

助かった。大幅に時間をロスするところだった。お礼を行って、乗るべき船が近づいてくるのを待った。

船は程なくして岸へと着き、船頭が駅へ飛び移りロープを縛り付け船を固定した。駅員は「さあ乗りなさい」といった雰囲気で僕を促してくる。

しかしである。乗りなさいも何も、板張りの駅から船までは落差1メートル以上ある。橋もなく、ハシゴもない。まさにハリウッド映画さながら、飛び移れということなのである。

思わず駅員に「まじ?」と日本語で聞いてしまった。もちろん駅員さんは何を言っているかわからないので、「速く乗れ」と船を指差している。

「ホントに映画みたいだな」と思いながら飛び乗ると、船はエンジン音を上げて動き出した。

外はもはや、日本で言うゲリラ豪雨のような大雨である。「これがタイのスコールか。体験できて良かった」と呑気なことを思いつつ、川の水量はみるみると上がり水流は激しく、ごく幅の狭い水路をエンジン音をなびかせ船は突き進む。

この大雨の中、なぜそんなにスピードを上げるのか?と不思議に思ったが、アジアの交通機関の運転手というのはそういうものなのだ。どんな状況であっても、出せるだけのスピードを出したいのだ。

途中で副船頭のような人が、幅3センチほどの船の縁をつま先で器用に歩いて僕に近づき、手を差し出してきた。

何をやっているのかわからずにポカンとしていると、周りにいる乗客が「チケット!チケット!」と教えてくれる。バスと同じように、走行中の船内で料金を払うシステムになっているのだ。

いくら払えばいいかわからないので、例によってポケットから小銭を出して手のひらの上に置いてみせた。するとそこから何枚かのコインを持っていき、代わりに船のチケットを渡してくれた。おそらく料金は10バーツ前後だったと思う。


金沢在住のフリーランス・ライター。2014年より海外への一人旅をはじめる。これまでに訪れた国は16カ国。旅に使っているカメラは、2016年秋に亡くなった写真家の伯父・富岡省三氏のHasselblad 500C/M。