タイ旅行記 3-8 バス停で一人のタイ人と巡り会う

タイ旅行記の34回目です。

スタジアムの外へ出ると、相変わらずトゥクトゥクとタクシーの客引き合戦である。それらを一斉無視しながらスマホ上のグーグルマップを確認する。近くのバス停からホテルのそばまで一本で行けるバスが走っているようだった。

時刻は深夜22時。こんな遅くまでバスがあるのか不安だったが、グーグルマップにルートが出ているということは大丈夫なのだろう。

スタジアムから歩いて5分ほどでバスの停留所へ着いた。停留所には5メートルくらいの長細いベンチが備えてあり、その真ん中くらいにタイ人の中年男性が座っていた。

その人から2メートルほど離れた左側に腰掛ける。グーグルマップを再び見てみると、一応、ここがホテルへ行けるバスの通り道にはなっている。

そうは言ってもバスに関しては昨日の夜に散々な目にあったので、本当に来るのか不安になってきた。

そこでそばに座っているタイ人に「このバスはこのバス停に来ますか?」と聞いてみることにした。スマホの画面を見せながら尋ねると、タイ人男性は人懐っこい顔をすぐに浮かべて、「大丈夫だよ!ここで間違いないよ!」と明るい口調で答えてくれた。

50代ぐらいだろうか。人の年齢というのは見た目だけではわからないものだが、それなりの年月を経てきている深いシワが目尻に刻まれていた。

「ありがとう」とお礼を言った後に、タイ人男性は僕との距離を1メートルくらいに詰めてきて、「観光ですか?」と聞いてきた。

「そうです」
「どこの国の人?日本人?ムエタイを観たの?リングサイドで観たの?」
と急にたくさんの質問をされた。正直、そんなに社交性は高くないので、「あ、なんかめんどくさい人だな」とこの時は思った。

「リングサイドで観ましたよ」と答えると、「そうなんだ。僕はあんなに高い席は買えないから、もっと安いところで観たよ」みたいなことを話した。

それで話題が終わるかなと思ったら、さらに「職業は何?」と聞いてきた。

プライベートなことに踏み込んでくるなーと思いつつ、なんて答えればいいのだろうと考えてしまった。僕がやっている一連の仕事をタイ人にどう説明すればいいのだろう?

一番わかりやすい回答として、「デザイナーだよ」と答えておいた。広義で間違っていないし、おそらくデザイナーという英単語は世界で通じるものだろう。

タイ人男性は「そうなんだ」といった感じでうなずき、その後は沈黙が流れた。お互い英語の能力がさほど高くないので、話したいことがあってもそれを表現する言葉がうまく出てこないのである。

そんな感じで気まずいような親密なような微妙な空気が流れているところに、向かい側の車線に1台のバスが到着した。

するとタイ人男性は驚いた顔で立ち上がって、「あ、もう最後のバスが行ってしまっている。これは大変だ、すぐに移動しなくちゃ。君も来なさい」そう言って僕を手招きしながら歩き始めた。

わけがわからなかったが「変なところに行くようだったら逃げればいいか」と、とりあえず彼の後をついていくことにした。