タイ旅行記 3-11最後の夜は、こうして更ける

2016-08-06 8:28

タイ旅行記の37回目です。

これ以上、ホテルへの帰り方を話し合っても先に進まないと思ったので、話題を変えることにした。

「名前はなんて言うんですか?」
知り合って1時間弱、まだ名前を聞いていなかったことに思い当たったのだ。
「ヨウだよ。あなたはなんという名前なの?」

僕の名前は、苗字も下の名前も海外の人にはとても発音しづらいものらしい。これまでに自分の名前を告げても何度も何度も聞き返され、結局、きちんと呼ばれたことがない。なので名前の上2文字だけを告げることにした。

タイ人男性のヨウさんは、それを興味深げに聞いていた。

「年は何歳?」
「43歳です。ヨウさんは?」
「50歳だよ。もう年寄りになっちゃったよ!」
そう言って笑いながら、ヨウさんは少し自分の身の上話をしてくれた。もともとは中国に住んでいたこと。20代前半にタイへと移住してきたこと。20代半ばの息子さんがいること。

海外への一人旅を始めて三カ国目となるが、そこに住む人とここまで接触したのは初めてだった。これまでも話をする機会はあったが、それは施設で働くお店の人だったり、ロープウェイで同乗した人と束の間の会話だったりした。

当たり前のことなのだが世界にはたくさんの人間が住んでいて、彼らにもそれぞれ人生がある。

僕が日本の地方都市で自分の人生を真剣に生きているのと同じように、ヨウさんもまたタイの街中で毎日を懸命に生きているのだ。たまにムエタイを見て自分の時間を楽しみながら。

こうして話をしているうちに、グーグルマップは地下鉄の駅近くを示し始めた。時刻は23時近くになっている。これ以上遅くなると、地下鉄で帰ることができなくなるかもしれない。次の停留所でバスを降りることにした。

「ヨウさん、ありがとう。次の停留所で降りて、そこから地下鉄に乗ってホテルへ帰るよ」
「ええ?ほんとかい?そんなことをしてたら、着くのは明日の朝だよ!」

またそう言って冗談を言われた。ブザーを押して降りることを運転手へとアピールする。程なくバスは停留所の前で停まった。

「ありがとう、じゃあここで降ります」

そう言って右手を差し出した。ヨウさんはその手を握って、「気をつけて」と声を掛けてくれた。ドアから降りた後も、窓越しにこちらへ手を降ってくれる。そして次第にバスは遠ざかり、タイの夜に消えていった。

「さて」とグーグルマップを再び起動して、地下鉄まで徒歩のルートを調べた。

掛かる時間を見てみると、5分程度で着けそうである。どういう計算をすれば到着が朝になるのか…、とヨウさんの冗談を思い浮かべると笑いがこみ上げてきた。

そうして無事、駅から地下鉄に乗ることができ、ホテルへと到着した。ムエタイを見ようとホテルを出てから帰るまでに7時間。その間に起こったことが、とても奇妙なことに思えてきた。

スコールの中、船に乗り、道でオオトカゲに会い、カオスな状況でムエタイを見て、初対面のタイ人男性と一緒にバスを乗り継いだ。それらのことを一つ一つ振り返りながら、ベッドへと潜り込んだ。


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