映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』を見たので、レビューします。
この映画は、ニューヨークのホテルを紹介したドキュメンタリーです。
ホテルの名は、カーライル。
1930年に創業され、今ではクラシカルといっていい風貌のホテルです。
映像を見る限り、はっきり言ってボロいです。
最新の設備もなさそう。
それでもハリウッドスターや映画監督、イギリスのロイヤルファミリーなど、世界中のセレブが定宿にしています。
この映画の趣旨は、「その人気の秘密を解き明かす」といったところ。
さて、なぜこの古めかしいホテルに人は集まるのでしょう。
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『カーライル ニューヨークが恋したホテル』レビュー
ホテルですから、一般の人々も普通に泊まれます。
でもその値段がかなり高い。
トリップアドバイザーで調べてみたら、直近の普通の部屋で一泊20万円しました。
確かにお金を出せば誰でも泊まれますが、一泊の滞在にそれだけの価値を感じられる人へ向けた、「特別なホテル」なのはわかります。
スタッフの多くは、勤続年数がすごく長い

この映画では、その魅力を常客のハリウッドスターや映画監督などのインタビューで伝え、働くスタッフたちの話が補うという形式を取っています。
それを見ていて、ひとつ気づいたことがありました。
働いているひとの多くは、勤続年数が長いのです。
10年超えは当たり前。
20年、30年、40年と、長期間ずっと勤めている人ばかり。
インタビューした1人は勤続年数7年しか経っていないから、「私はまだ何もわかっていない」と謙遜していました。
それだけ長い年数、勤めているのですから、常客たちとも仲良くなります。
予約の電話をすれば、いつものコンシェルジュが冗談交じりに受け答えをしてくれる。
ホテルへ行けば同じエレベーター係がいてくれて、「やあ、久しぶり。調子はどう?」と友達のように会話する。
バーへ行けば、30年以上カクテルを作り続けているバーテンダーが、目配せだけでいつもの飲み物を作ってくれる。
つまりカーライルへ行けば、自分の家へ帰ってきたような安心感を味わえるのです。
人よりもシステムを重視する現在の会社

これらは、今の社会では対象的な光景です。
利益を追求する会社にしてみれば、従業員が「代えのきかない存在」になると困ってしまいます。
なぜならそのひとが辞めてしまえば、会社が機能しなくなるからです。
そのため通常の会社では特定の個人に依存しないよう仕事をシステム化し、誰がやってもある程度のアウトプットを出せるようにしています。
この考え方は、資本主義経済では正しいです。
特定の人物がいないと会社が機能しないのであれば、それだけリスクを抱え込むことになります。
リスクのある会社には、誰も投資をしないんです。
代えがきかないから、その仕事に忠誠心を持つ

しかしカーライルを見ていると、そういったビジネス的な常識を疑いはじめてしまいました。
なぜなら、システムを洗練して「誰がやっても同水準」の仕組みを作ると、社員の忠誠心は上がらないからです。
だってそうですよね。
人間は誰しも、「自分は価値のある存在だ」と思いたいものです。
それは多くの時間を費やす、仕事において顕著に表れます。
それなのに、「仕組みがきちんとできていますから、あなたの代わりはいくらでもいます」と暗に言われたらどうでしょう。
その会社に対し、忠誠心を持つ気になるでしょうか。
カーライルは、従業員一人ひとりの誇りの上に成り立っている

カーライルで働く人たちは、ドアマンにしろ、車の誘導係にしろ、みんな「このホテルが好きだ」とほほ笑みながら話していました。
「エレベーター係なんて、ボタンを押すだけの仕事だ。オレは子どものころにできるようになったよ」と常客の1人は話します。
それでも、その子どもでもできるエレベーター係に多くのお客さんがついていて、エレベーター係もまた、それを誇りに思っている。
このホテルは、そうした一人ひとりの誇りで支えられているんだ。
それに気づいて、胸が熱くなりました。
代えのきかない人々の組織は強い
AIの脅威が叫ばれておりますが、特にホテルは人と人とが触れ合う場所。
AIはおろか、「代えのきかない人々」がいればいるほど、特定のお客さんから熱烈な支持を受けます。
「これはホテルだけではなく、あらゆる仕事に言えることなのでは」この映画を見ながら、そう思いました。
代えのきかない人々で構成される組織は、強いです。
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