歴史的名書『イノベーションのジレンマ』をわかりやすく解説

最終更新日 2022-05-14

ビジネスの良書に『イノベーションのジレンマ』があります。
有名な本なので、ご存知の方も多いでしょう。

これまで何度か挫折しましたが、先日ようやく読み終えました。
そこでこの記事では、「イノベーションのジレンマ」をできる限りわかりやすく、かつ読みやすい文章で解説してみます。

歴史的名書『イノベーションのジレンマ』をわかりやすく解説

『イノベーションのジレンマ』は、1997年にアメリカで発行された本です。
古い本なので、「いま読んだところで、得られるものはあるだろうか」と疑問に思う人もいるでしょう。

読んでみた感想は、「自由競争の資本主義が続く限り通用する考えだ」です。
顧客相手に自由競争を行っている企業であれば、「イノベーションのジレンマ」はずっとつきまとってくる問題です。

読みづらいが、書いてあることは難しくない

そんな良書でありながら、最後まで読みきれず挫折した人は多いのではと思います。
なぜか。
それはこの本が、とても読みづらいからです。

著者のクレイトン・クリステンセンは、執筆当時ハーバード・ビジネス・スクールの教員でした。
そのため文章の書き方自体が学術的で読みづらく、また正確な記述を心がけているためか悪く言えば冗長で、本筋とはあまり関係ない枝葉の注釈がかなりあります。
原語が英語のため、翻訳調で読みづらく感じるのもありますね。

しかしなんとか読み終えてみると、「書いてある事自体は難しくないな」と思えます。

優秀な経営者ほど、革新的な製品を生み出せない

おそらく多くの人は、本書を読まずともイノベーションのジレンマの考え自体はなんとなく理解していると思います。
多くの人の理解は、以下のような感じではないでしょうか。

既存顧客ばかりへ目を向けていると、革新的な製品を生み出せない

この理解でほぼ正解です。
ただ本書に書いてある重要な視点が抜け落ちています。
本書で提示しているのは、以下のような感じです。

優秀な経営者であればあるほど、既存顧客ばかりへ目を向けて、革新的な製品を生み出せない

この「優秀な経営者であればあるほど」がミソです。
ではその条件付けである「優秀な経営者」とは、どんな経営者でしょうか。

優秀な経営者とは

優秀な経営者とは、会社に利益をもたらす人です。
まあ当然の話ですね。
利益をもたらした結果、それを株主や自分を含めた役員、社員などへ還元できます。
それが経営者の使命ですから、利益を上げられる経営者ほど優秀とみなされます。

こういった「利益を獲得できる優秀な経営者」ほど、革新的な製品を生み出せず、長い目で見ると衰退していくと本書では指摘しています。
それはなぜなのか。

利益を追求するのが優秀な経営者

経営者が利益を出そうと考えたとき、一般的にはどういった方法を取るか。
通常は、「より少ない資源で、より多くの利益を得る」方法を取ります。
それが合理的だからです。

その逆に、「より多くの資源で、より少ない利益を得る」方法は選択しません。
そんなことをすると株主からお叱りを受けるし、優秀な社員から見限られてしまいます。

つまり「より少ない資源で、より多くの利益を得る」は、経営者として正しい行動であり、優秀な人ほどこの方法を突き詰めるのです。

利益は既存顧客へリソースを注ぐことで得られる

では「より少ない資源で、より多くの利益を得る」には、どうしたらよいか。

もっとも簡単なのは、「すでに市場で多くのシェアを取っている製品にリソースを注ぐ」です。
すでに多くのシェアを得ているということは、顧客から支持されているということです。
顧客の要望に耳を傾け反映させていけば、新製品が出ると顧客は買い替えてくれます。

既存顧客に向けて性能を向上させれば、売上はどんどん増える。
さらにノウハウがたまるうちに、製造過程や流通でコストカットが実現できて、より多くの利益も得られるようになります。

現場のマネージャーも既存顧客への注力を進言

この「既存顧客向けに性能を向上していく戦略」は、経営者が独断で判断しているわけではありません。
そもそも現場を知るマネージャー自体が、それを進言します。

それはよく考えれば当然の話。
マネージャーたちは、何より自分の成績アップを考えます。
売れるかどうかわからない革新的な新製品より、より確実に売上が見込める既存製品のリニューアルを進めるのは理にかなっています。

革新的な新製品の試作品を既存顧客に見せたところで、彼らにとって必要な機能を満たしていないので反応は今ひとつでしょう。
売れるかどうかわからないギャンブルをする必要は、マネージャーにとってもまったくないのです。

持続的イノベーションで利益がアップ

こうして優秀なマネージャーからの進言を聞き、優秀な経営者は既存顧客の満足度をアップさせる戦略を取り続けます。
この本では既存顧客に向けた性能アップを、「持続的イノベーション」と呼んでいます。

持続的イノベーションで性能アップすればするほど、顧客の満足度もまたアップします。
製品が売れて、市場は拡大します。
その結果、経営者の思惑通り、売上及び利益もアップします。

この本ではその過程を、ハードディスクを例にとって解説しています。
ハードディスクは登場以来、製品の性能を向上し続けました。

性能アップのメインは、容量のアップです。
コンピュータが進化するにつれて、大きな容量の記憶媒体が必要になります。
そのためコンピュータの進化とともに、ハードディスクの容量アップが顧客から求められ、各メーカーはその要望に応え続けたのです。

性能はいつしか顧客の要望を越える

しかし性能アップし続けると、いつしか製品は顧客が十分と思う地点を追い越してしまいます。
「そこまでの性能は、現時点では必要ない」とオーバースペックになってしまうのですね。

ハードディスクの進化は、ある地点でそのときの顧客の要望を越えてしまいました。
要望を越える性能をつけたところで、価格が高くなるだけなので顧客はその製品を選択しません。

こうして性能が顧客にとって十分な地点までいくと、製品を選ぶ基準が変わってきます。
どのメーカーも必要な性能は満たしているため、それよりも壊れにくかったりサポートがしっかりしていたりといった、信頼感が重要になってくるのです。

さらに市場が成熟しどのメーカーも信頼感のある状態になると、最終的に顧客は価格を基準に選びます。
ここまで来ると、その製品の市場は成熟しきっているといえます。

持続的イノベーションは、以下のような流れを取るわけです。

性能重視 → 信頼重視 → 価格重視

破壊的イノベーションが持続的イノベーションを駆逐する

市場が完全に成熟し価格で選ばれるようになると、いくら持続的イノベーションを行ったところで大幅な売上アップは望めません。
価格競争が激しくて利益が取れず、また売れる製品の数も頭打ちになるからです。

そうして成熟しきった市場は、ある日突然、ゲームチェンジします。
それまで見向きもされなかったまったく新しいコンセプトの製品が注目され、顧客のニーズが一気にそちらへ移ります。

この本では、この市場をかえる新しいコンセプトの製品を「破壊的イノベーション」と呼びます。

持続的イノベーションの製品は、破壊的イノベーションの製品に駆逐される

ハードディスクは各社が容量アップにしのぎを削る

その過程を、ハードディスクの例で見てみます。

ハードディスクはもともと、研究所や大企業の大型コンピュータ向けとして作られました。
大型コンピュータに使うハードディスクは、何よりも容量が重要です。
容量を求めた結果、どれだけサイズの大きなハードディスクになってもかまいません。
そこでどのメーカーも、容量アップを重点に持続的イノベーションを行いました。

小型ハードディスクが登場

主要メーカーが容量アップにしのぎを削るころ、その戦いに遅れを取ったメーカーが小型のハードディスクを開発します。
小型のハードディスクは容量が少なく、また容量に対して価格が高価でした。

当然ながら既存の大型コンピュータ向けの需要には、まったくマッチしません。
そのため優秀な経営者ほど、小型ハードディスクの開発には見向きもしませんでした。

ハードディスク業界の現象は、どの業界でも起こり得る

そうして主要メーカーが持続的イノベーションをつづける一方、コンピュータ業界に変化が訪れます。
それまで高価だったコンピュータにデスクトップタイプが生まれ、一般消費者に手の届く存在になってきました。

大型コンピュータと違い、一般家庭向けのデスクトップのハードディスクは、容量よりサイズが重要です。
新しく生まれたデスクトップの市場に小型のハードディスクは歓迎され、徐々にシェアを伸ばしていきます。

そしてある日、デスクトップコンピュータの需要が大型コンピュータの需要を上回ります。
サイズが大きくても容量が多ければよかったハードディスクは売れなくなり、普及し始めたデスクトップ向けの小型ハードディスクが市場を占める。
その結果、持続的イノベーションを行っていた優秀な経営者は、市場から退場させられたのです。

このハードディスク業界で起こったイノベーションのジレンマが、「どの業界にでも起こり得る」とこの本では指摘しています。

優秀な経営者はどうすればよかったか

では優秀な経営者は、どうすればよかったのでしょうか。
本来であれば、市場が「信頼重視」から「価格重視」へ移り変わるときに、破壊的イノベーションの製品を出しておくべきでした。

この「イノベーションのジレンマ」の考えを知っていれば、持続的イノベーションと同時に、破壊的イノベーションへリソースを注げる可能性があります。

ただし、そのやり方には注意が必要です。
破壊的イノベーションの製品は、そもそも売れるかどうかわかりません。
売れるかどうかわからない製品を、社内の主力部隊で作っても株主や社内から反発を受けてうまくいかないのです。

ごく小さく独立した組織で破壊的イノベーションを開発

いちばん成功確率の高いやり方は、破壊的イノベーション向けのごく小さな独立した組織を作ることです。

破壊的イノベーションの製品は、ニーズが合わないため既存顧客には受け入れられません。
そのため、新たに市場を作る必要があります。
市場を作るのは時間がかかるし、売れたとしても最初のうちはごく僅かです。
最初は利益が出ないことを想定し、先行投資としてプロジェクトを辛抱強く進めます。

また売上の立たないプロジェクトに参加している社員は、モチベーションを保ちにくいです。
「このプロジェクトは、会社の未来を救うものになる」と社員をモチベートし、たとえ会社全体からみて僅かな売上だとしても、それを正当に評価する仕組みを作らなくてはなりません。

そうしてごく小さく独立した組織から破壊的イノベーションを進め、市場の変化に対応していくのです。

まとめ

以上が、書籍『イノベーションのジレンマ』の解説です。
まとめると、以下のような感じになります。

  • 優秀な経営者は利益を合理的に追求するため、既存顧客向けの持続的イノベーションに注力する
  • 優秀な経営者は、既存顧客に受け入れられず利益に反するため、破壊的イノベーションの製品へはリソースを振り分けない
  • 顧客と接点を持つマネージャーも、自分の成績のため持続的イノベーションの継続を進言する
  • 持続的イノベーションが進むに連れ、市場での顧客の選択は、「性能→信頼→価格」 へ移り変わる
  • 顧客の選択が価格重視となり市場が成熟したところで、破壊的イノベーションにより市場がゲームチェンジする
  • その結果、合理的に利益を追求しつづけた優秀な経営者ほど、ゲームチェンジした市場からの退場を余儀なくされる
  • そうならないために、持続的イノベーションと同時に破壊的イノベーションへもリソースを割く
  • 社内でごく小さな独立した組織を作り、そこを破壊的イノベーションの開発拠点とする
  • 破壊的イノベーションの組織は、市場ができあがるまでは利益を出せないため、長い目で見て辛抱強く投資を続ける
  • 破壊的イノベーションの開発を担当する社員を「大切な仕事だ」とモチベートし、社内的には小さな成果でもきちんと評価する

こうしてまとめてみると、「確かにそのとおりだ」と納得感があります。
しかしどんどん売り上げが増えて会社が成長していく中で、利益の取れない革新的なプロジェクトへリソースを割くのは、実際にはとてもむずかしいと思います。

この本が提言する「イノベーションのジレンマ」を知っていれば、この罠に陥らずに済むかもしれません。
そういった実践的な意味でも、『イノベーションのジレンマ』は名著と呼ぶにふさわしい本だと思いました。

冒頭に書いたように読み応えのありすぎる本ですが、この記事をきっかけに手にとってもらえれば幸いです。